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【ネタバレ書評】鬼塚忠 花いくさ【野村萬斎主演映画『花戦さ』原作小説】

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2021年10月27日読了。

個人的なアウトプット、ネタバレのある読書感想文。

感じたこと、気づいたことのまとめ。

 

あらすじ

織田信長が天下を取る前の清洲城で利休と運命的な出会いをする専好。

信長死後、秀吉に牛耳られる天下で、利休は一介の茶人としての発言力以上のものを持つことになり、秀吉の怒りを買い自刃する。

利休と親交が深かったことで、専好も秀吉に目をつけられてしまい、六角堂を支えてくれた人々(季や吉右衛門)を失う。

繰り返される悲しみに終止符をうつべく、専好は秀吉に勝負を挑むことを決意。前田利家邸にて秀吉と対峙する。

一時は秀吉と刺し違えることすら覚悟した専好であったが、利休の遺した手紙により、花の人としていくさを完遂させた。

読んだきっかけ

利休にたずねよ』関連でネットをしていたら野村萬斎主演の映画があることで出会った。

レビューを見て、どうやらとても読みやすいらしく、気軽に楽天で中古を送料込み200円くらいで購入。

映画はキャストも豪華で本を読み終わったら見てみたいと期待していた。

戦国を舞台とした二次創作にも資料として足しになるかと思って。

 

 

登場人物

池坊専好

主人公。

六角堂の住職。祖父の代(応仁の乱以降)から花の名手として名高い。 京言葉をつかう柔和な中年の僧。特徴なくどこにでもいる中肉中背のおっさんで人ごみに紛れたらわからない。 人情に厚く朗らかで、下京の町人から愛されている。

妻:おたみ 優しく穏やか良妻賢母

息子:豊重 立派な男児。僧になるための修行から戻り花の稽古に励む。幼馴染の季が初恋だった。

娘:桜子 天真爛漫な11歳。父上に甘えるのも上手。吉右衛門に可愛がられている。

池坊専武

7つだか6つ年下の専好の弟。

線が細く病弱だが花の才能は専好以上かも。 兄を慕い、付き従う。奥様はいないのかな? 少年期から壮年期にさしかかっても、ずっとあどけなく行動言動ともにかわいい。恐らく美少年。言う時はけっこう言う。

平太

花を調達してくれる大柄な男。専好が花を立てられない日が続いても一日も欠かさず花材を調達し、尽くすことを難と思わない。 天涯孤独で無口だが心優しい。 秀吉との対峙では専好を命運共にする覚悟をみせた。

季(とき)

六角堂付近にある菓子屋の娘。 池坊家と仲が良く、花が好き。 北野大茶会で秀吉の悪口を言ったことで、10年以上経過したのち父母ともに死罪となる。

吉右衛門

お調子者でリーダーシップのある町人。 かつて娘が病に倒れた時、専好の花が見たいと言ったことで専好が夜中にもかかわらず駆けつけ花を立てたことがある。娘は幸せそうにして死んだが、吉右衛門にとっては専好が命の恩人のように感じていた。 六角堂をうろついていた浪人(もとをたどれば秀吉の差し金)を尾行し罠にはまって命を落とす。

千利休千宗易

織田信長を経て秀吉の茶頭をつとめる茶聖。 大阪なまりで何事にもビビらない男。 美に対してはとてつもなく頑固。 専好を清州城で初めて出会い、立花に専好の慢心を見抜くという鮮烈なファーストインプレッションを与えたのち、親交を深める。 専好のまえではただの気のいい大男おっさん。 けっこう年下の専好が大好き。切腹の日に書状を書いちゃうくらいには大好き。 専好とは花の稽古もたくさんしたし、たくさん笑った。 冬の六角堂本堂で利休・専好・専武の三人で稽古してときに戯れ朝方倒れるように寝落ちたりしたもはや青春の日々みたいな思い出がほんとうに空気感もうつくしい。 秀吉と対立し、茶人として曲げられない信念の前に自刃。

豊臣秀吉

百姓から取り立ててかわいがってくれたお屋形様(織田信長)が大好き。猿って呼んでいいのはお屋形様だけ!むしろ呼ばれてうれしい!!お屋形様のためなら死ねる!! とにかく見た目が猿で残念な秀吉。祭り好きでわがまま。 信長死後、天下を手中に収めた晩年あたり特に鶴松死後は、年を追うごとに我を失って全てをむさぼるようになる。狂っているように見えるが、お屋形様のことを忘れたわけではない。 本当は利休に認められたかった。

石田三成

冷酷無慈悲で無表情。狡猾。意地悪。わくわくするほど冷たい。 秀吉の言うことは素直に聞くけど、利休が大嫌い。利休のまわりも大嫌い。 六角堂を訪れ、専好に警告するシーンで発した「死を賜るぞ」は迫力にぞくぞくした。死神かと思った。 青と白が似合う色白美人だといい。目元涼やかそう。

前田利家

加賀百万石、槍の又左。 利休と並び秀吉に意見できる唯一の武将。利休と専好と親交がある。 勇ましいがゆえ無骨ではあるが、自らの美を見出すことのできる生真面目なおとこ。 涙もろい。 専好が秀吉に謁見したいと話したとき、僧侶ごときが太閤に会うことは大変難しいが自邸に秀吉を招く折には専好に花を立ててほしいことを提案してくれた。懐がひろい。 しかし専好がその席で秀吉と刺し違えた場合、自分の責任問題になりかねないことを危惧してもいた。そこは肝っ玉が小さくて残念。

 

 

印象的なシーン

  1. 秀吉が信長の訃報をうけ、悲しむ間もなく大返しして明智光秀を討つまで
    秀吉が狡猾でカッコイイ。お屋形様が純粋に大好きな猿が可愛く描かれつつ、信長が猿を可愛がる描写もたまらない。
  2. 清州城で専好の花を「怖い」と一蹴する宗易
    その花をみた利休以外全員がべた褒めしているのに利休だけが難色をしめした。 専好にもわからなかった慢心が分かったというのは、利休にだけ本質を見抜く力があるということで他の者の目が節穴ということではない。 ただ最初このシーンの利休はちょっと上からで嫌だった。
  3. 北野大茶会で利休と専好のブースが盛り上がる
    黒山の人だかり。明るくて楽しい。 それを見て人知れず泣いている利家もいい。
  4. 利休の首に白布をかけて一条河原で専好が号泣
    豪雨の中めちゃくちゃに泥を撥ねさせて駆け寄り号泣。 ほとんど愛している。
  5. 死地に赴くであろう専好に専武が利休からの書状を渡す
    専武のいい感じのシーンはたくさんあるけどここは最高。 翌日旅立つ専好を直接見送ることを感極まるのでできない弟は「利休様、兄上を手紙でとめてくださらなんだか」と言って泣くシーンも最高。
  6. 利家邸にて専好の花を見る秀吉
    清州城の在りし日の信長を思い出して号泣する秀吉。かわいいままの猿。 はないくさで勝つとはこういうことなんだなあ。

感想

天下の趨勢や歴史的流れの解説がわかりやすく書かれているので、難しくて読むのがだるいということはなかった。とてもライト。

茶道の説明にも『利休にたずねよ』には及ばずながらボリュームが割かれているのも好感度が高い。

その分華道の作法や道具について触れられている部分が物足りなさを感じた。もう一度丁寧に読んで学びたい。(覚えた単語やキーワード→立花、花を立てる、松が真、器、あしもと、軸、鋏、カンナ、斧)

人情話として気持ちをもっていかれることは多かった。涙をこらえたシーンも数か所。

 

アイキャッチはラストシーンから、松・紫のカキツバタ・猿・秀吉の落とした扇子を選んで作成した。

 

 

 

読書後に映画を鑑賞して

  • 絵師(れん)などの完全オリジナル要素が追加され、秀吉に文化人が挑むという構図をより強力に描いている。
  • キャストは主演の野村萬斎をはじめ、織田信長中井貴一、利休・佐藤浩市など豪華で魅力的。演技力も文句ないが、個人的に光成と専武は全然イメージでは違っていてがっかりした。俳優が悪いとかではない。
  • 花のうつくしさは繊細で研ぎ澄まさえていたが、花の迫力が伝わりにくいと感じた。
  • 利休と専好と専武の冬の本堂でのけいこのシーンなど、親交を深めるふたりのエピソードは削ってほしくなかった。うつくしい思い出が大胆にカットされまくっていて残念。
  • 小説と映画はまったくの別物として楽しんだ方がいいかも。私はもちろん小説推し。