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【ネタバレ書評】宇佐見りん かか【第56回文藝賞受賞作】

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2021年2月16日読了。
個人的なアウトプット、ネタバレのある読書感想文。
あらすじは書きません。
感じたこと、気づいたことのまとめ。

この記事を読んで参考になることと言ったら、この小説を読了した人が他の読了者の感想を知りたくて検索でたどり着くくらいでしょう。

 

この本について

 

作者

正直この本を読み終えて宇佐見りんという若い女の子の姿は見えてこなかった。
だって宇佐美りんが、うーちゃんだとは到底思えなかったから。
20そこそこでこの鋭い観察眼と人の核に切り込んだ発言をやってのける作者は、どこにでもいそうなSNS依存の19歳のうーちゃんとは近くないと思ったからだ。

 

文体

かか弁という特徴的な、創作方言は私には読みづらくはなかった。
逆に世界に引き込むトリガーとなっていて、それがあまりにも強力なので文字を蹴飛ばすように目が走って世界に引き込まれた。

 

全体の雰囲気

入っているうちにぬるくなって追い焚きされない湯舟みたいな温度感がずっと漂っている。
4人家族でいた時、問題があってもそれはあったかい風呂だったんだと思う。だんだんお湯が冷めて、風呂場はすごく寒くなって、それでもまだ湯船だけは入っていた人間の体温のぬくもりが残っていて、その中で意味なく体を泳がせている。そのうち自分も体温を奪われて冷たくなっていく、ゆっくり。

 

読んだきっかけ

ドコモのスマホプランにおまけでついてきたAmazonプライム1年間無料を契約。
せっかくなので無料で読める本を探していた。DaiGoの超選択術を読みだしたが、どうにも身が入らない。普段読書をしないばかりか、この手の本はほとんど触ったこともないので、はっきり言ってどうやって読み進めていいかわからない。箇条書きだったり、マーカーが引いてあったり、太字になっていたりで、地の文章は読まなくていいのか?
とにかく手が止まった。
キンドルのアプリをスクロールしていると一冊の本が目に留まった。『推し、燃ゆ』。
わかりやすい、と思った。オタクゆえの親近感だろうか。とにかくそのピンク色にティーンの女の子が吊るされた表紙をタップすると無料サンプルを読んだ。作者はまさに新進気鋭、芥川賞受賞の21歳女子大生か。『推し、燃ゆ』は二作目、処女作は『かか』。ふーん、こっちもサンプルを読んでみるか。
経血の金魚。生々しさへの期待が高まる。たった数ページだったがどうにも続きが気になった。
どうにかして読む方法はないだろうか、本はかさばるから欲しくない、どうにか電子書籍で。
気持ちが強いの人間の行動は早いものだ。
楽天Kobo初回500円オフクーポンで『かか』の電子書籍を930円で購入していた。
その日のうちに読了。

 

登場人物

個人的な偏見を織り交ぜたキャラクターの紹介。

 

うーちゃん

主人公。19歳の女性。処女。母が嫌いで好きで憎んでいる。女らしくはない。成績はもともとよかったが、母のせいで指定校推薦がダメになった浪人生。学校では陰キャだった。リアルの友達がいない。ツイッターに住んでいる。大衆演劇が好きでこづかいで推しを見に行く。

 

かか

うーちゃんとみっくんの母。40代。ととと離婚してから酒を飲んで暴れるようになったが、きっかけに過ぎず原因は幼少期に母親から愛されなかったこと。かかが発狂してしまってから家族はみな疲れて、ある種あきらめているようにも思える。
これはうーちゃんの補正があるかもしれない、きれいで割とグラマーなのかも、ガリガリに痩せてはいない。はっきりと描写されているわけではない。
かわいい、あまったれた口調。子供にべたべたしがち。
いつも家族のご飯を作っている。
ピーナツアレルギー強。
ババが痴呆になってしまったことを言葉ではわかっていても、受け入れることはできなかった。

 

みっくん(おまい)

うーちゃんの弟。男子高校生。家から出ていきたいし、自分も狂っているのか不安になる時もある。
この姉弟は割と仲がいいのは、これまで一緒に過ごした時間が長いのと、母の胎からうまれた戦友みたいな部分があると思う。
母のことにつかれているがちゃんとお見舞いに来て魚を取り分けてくれたり、母のことは好きなんだと思う。やっぱり母にとっての息子は恋人なのかな。
不謹慎な時に笑ったり、デリカシーのない大雑把さが男らしいと感じた。
みっくんは父親に対してどういう気持ちを持っているのか知りたかった。

 

明子

夕子(かかの姉)の娘。25歳。夕子が病死したことでうーちゃんの家に住むことになる。父は海外単身赴任中。
派手な背中の空いたワンピースを着ている。男をとっかえひっかえしている。
風呂は一番最後に入る。家族としてなじむことはなく、私室(昔は夕子の部屋だった部屋)に誰も入れようとしない。
意地悪ばかりする。
夕子が死んだとき、目を見開いていた。死に顔を目に焼き付けておきたかった。

 

ばば

かかと夕子の母。70代。ボケていてヒステリック。
かかのことを夕子が一人で寂しくないようにおまけで産んだということを、かかとの喧嘩で認めている。
夕子の子、孫の明子を気に入っている。
オペラを明子とじじと見に行っていた。お金には困っていなさそう。
じじの様子についての表記がこの小説には一切ない。

 

とと

うーちゃんの父。自分の浮気が原因で家を出た。
暴力的な男。うーちゃんは頻繁に殴られていたようだ。つい殴りそうになって手を挙げ、それに防御しようとうーちゃんが反射で身構える仕草。そのまま叩いたりしないが拳を振り上げてしまったのが切ない。しみついているんだなと思うと。
現在はかかとは良好のようで、電話で近況を連絡したりしたり、振込でいいはずの養育費をわざわざ手渡しするために家に訪れることがある。かかのことを心配しているようである。
娘とどう接していいなわからない。つまらない下品な冗談でコミュニケーションをとろうとする。よくあるしょーもない親父像なのかもしれない。

 

みどりさん

ツイッター鍵垢の相互フォロワーのひとり。
母を亡くしている。空気を読まない発言、不特定多数との性交渉があることから、鍵垢の輪の数人からブロックされている。
みどりさんもどこまでが本当かわからない。うーちゃんのように嘘をついているかも。

 

心象に残ったシーン

印象に残るのはいつもエログロ。

 

冒頭 金魚

このシーンが本のすべてだと思う。
女ならだれもが知る、誰にも言わないきれいで気持ち悪い日常。見落とされて、描かれない、なんとなく隠すのが習慣になっている現実。
粘膜を晒されて、私はこんなです。あなたは?って言われているように感じた。
湯船の経血は、明子のだったのかな。うーちゃんは昼に風呂に入っているからかかのだったのかな。

 

ピーラー

シンクに転がったピーラーを見て母が自傷行為してしまうシーン
それが実際行われたわけでもないのに、その妄想は恐ろしくリアルだった。

ピーラーというのが、リアル。ピーラーで怪我したことくらいみんなある。

 

はじめての快感

14の時、暴れた母に抱きしめられ、偶然耳に吐息を感じてぞくぞくするうーちゃん。
親に快感を教えられているようで思春期の性に対しての嫌悪感が漂う。

自分の親がした性交を不潔だと思うのは誰にでもあることかもなあ。

 

靴下の中の親指

観音様に性的欲求を感じるシーン
それまで自分と自分以外全ての性について嫌悪感を抱いていたうーちゃんが、この旅でいよいよおかしくなったと思った。
女であることではなく、観音様と交わりたいという欲求に満ちている。

 

SNS

この話でSNSを使うシーンが多用されているがそれが果たして効果的かは分からなかった。あまりにも普通だから。
ただ、鍵垢、空リプ、いいねだけでつながり、DMで励まし合う。ぬるま湯。
笑ってしまうくらい、わたしを含めた大多数のオタクがこの使い方をしている。この温度感、経験しているとすごくうーちゃんが近くなるかもな。
作者は二次創作とかやっているんだろうか。知ってる作品を二次創作しているなら読みたい。

 

気づいたこと

  • 自分の身にも近い将来起こる、親の老いていく姿を見たくないという気持ち。
  • 姉妹とは親に比較され、親からの愛を平等だと思えないのかもしれない。
  • かかは死んではいなかった。子宮筋腫の手術は成功し子宮がなくなっただけ。何かが大きく変わったわけでもない。今後変わっていくとも思えない。
  • 娘が「お母さんが好き」と言えても、「母を愛している」とは恥ずかしくて重くて言えない。うーちゃんはかかに愛されていたし愛されている、だからこそかかを産んであげたい。そういう思考に行きつくことができる。
  • かかもうーちゃんも母娘で、ばばとかかも母娘、ばばと夕子も母娘なんだけど、全然違うようだけど母娘なんだよなあと感じた。

母は神ではない。
母が神ではないことは、自分が母にならないとわからないのかもしれない。だって私は神ではないけど母を15年もやっているんだから。
だから、うーちゃんにとってかかは狂ってもかみさまなのかもしれない。かみさまっていうのは、信じるものとか心の支えとかそういった意味での。

 

最後の一文の意味
喪失感いっぱいの『うーちゃんたちを産んだ子宮はもうない』は、「かか(かみさま)が生むものはもうない」という意味と、「うーちゃんたちのふるさとはなくなった」はたまた、「かかは神ではなくなった」という意味を示唆しているのかなあ。