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【ネタバレ感想文】伊藤潤 天下人の茶【第155回直木賞候補作】

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2021年11月7日読了。 個人的なアウトプット、ネタバレのある読書感想文。 感じたこと、気づいたことのまとめ。

あらすじ

第一部(問題提起でありプロローグ)第二部(エピローグ)は利休死後の能にのめりこむ秀吉が『明知討』仕舞の最中に考えていることであり、それに挟まれた本文は4つに分かれている。

その4つの物語は利休の高弟たち(牧村兵部・瀬田掃部・古田織部細川忠興)を主人公にそれぞれの茶の湯と生き様が語られる。

茶の湯に、乱世という時代に、翻弄される弟子たちだが、利休は天下を静謐に導くことだけを考えていた。 利休は秀吉と一心同体となり、生きてたたかいその命を終えた。秀吉は利休が死んだあとも、利休に操られ続ける。最後の一行、「いったい、わしは誰なのだ」から利休が死んだとき秀吉もまた死んだのだと感じた。

読んだきっかけ

利休関係の本をネットで探していて見つけた。 ミステリー小説と説明があったので読んだこともないしかなり身構えたが、利休にたずねよよりページも少ないし挑戦。

 

要約

目次ごとに内容をまとめました。主観がすごい。

第一部

舞うことで利休(茶の湯)から逃れようとする秀吉。
「殿下とわたくしは一心同体でございます」

信長により、当時堺州の一人にすぎなかった利休と初めて対面する秀吉。
「人は豊かさよりも安んじて暮らせることを求めるとは思いませんか」
当時の秀吉はそれを建前えと思っていた。

奇道なり兵部

メイン:牧村兵部 サブ:高山右近

求めても手に入らない自分だけの詫び

利休に、真似ばかりではなく奇道を行き自分だけの詫びをみつけていない、と言われたことを気にしていた兵部。
小牧長久手の戦い、窮地に追い込まれた秀吉の甥、秀次を奇道を見定め救うことに成功。
高山右近から勧められた耶蘇教に入信するも、時勢により棄教。中心人物である右近にも棄教をせまるが、聞き入れられず、右近は常道(形だけ棄教し心では耶蘇教に頼る都合のいい生き方)をいく兵部を侮蔑する。
朝鮮出兵時、兵部が民家で見つけた高麗茶碗は、夢の中で利休に認められた品にそっくりだった。戦場を離れ夢中に茶碗を漁っている中、敵襲に遭い現地の民によって殺害される。

過ぎたる人

メイン:瀬田掃部 サブ:山上宗二

託される者、成し遂げられないおもい

茶杓の名人である掃部は、利休に「この櫂で渡っていける、この国を正しき方向に導かれよ」と託される。
小田原攻めで北条に間者として潜り込んだ掃部は、山上宗二と再会し茶杓「春雷」を形見分けされる。
利休死後、掃部は秀次に秀吉殺しを持ち掛ける。それから深三畳台目の草庵数寄屋で秀吉と秀次、掃部の茶席をもうけ、計画を実行するが、秀吉に「春雷」が象牙とばれ、掃部は気の動転した秀次によって春雷で首を貫かれ絶命する。

ひつみて候

メイン:古田織部 サブ:小堀遠州

時代は移り変わる

  • 遠州が一人前の茶人になっても、ぬるきもので終わると決めつけ雑用を申し付けている織部
  • 織部と温泉につかる利休 秀吉が茶の湯に飽きれば自分たちも用済みといわれ、ぞっとする織部
  • 利休と最期の別れをする織部
    利休は「独自の境地を持った茶人だけが権力者に迎合し、新しい茶の湯を創造し、世に問う(政治を動かす)ものが必要。それができるのは織部だけ。我が座を譲ります」と託した。
  • 秀吉の死の床の織部
    「わら屋に名馬をつながずでもよい」と侘茶の喩えに対して皮肉る秀吉。 そういって、一視同仁となった茶を大名たるべき茶へとりもどすことを織部に託し半月後死去。
  • 大阪の陣
    秀吉死後、織部が豊臣を擁護していることを良く思わない徳川は、細川忠興をよこし諫める。織部もここで終わるは本望ではないと、これに応じ謝罪することに。しかし事態はなぜか暗転し、織部は追い詰められ切腹を申し渡される。その頃には大阪城も落ち、豊臣も滅亡していた。
  • 最期の時
    切腹直前、介錯遠州と話す。遠州は長年軽く扱われてきたことを根に持っていた。織部が追い詰められたのは遠州の謀略によるものだった。 「きれいさび」をもって利休・織部に伍していくと言う。また織部の茶は歪みすぎて誰もついてこないと一蹴する。古い、と。 無念の中切腹する織部。死後、商人たちは織部焼を一斉に破棄。埋められもしない器で井戸が埋まるほどだった。

織部が傲慢で悲しい死を遂げるけど、私は織部の茶が好きです。

利休形

メイン:細川忠興 サブ:蒲生氏郷

すべてを知るふたり

  • 病床の氏郷を見舞う忠興
    ふたり、秘密を知るものであるが、自分たちにはどうしようもなかったと語らう。
  • 信長法要の席
    大勢の前で形(なり)について秀吉に説く利休。「きらびやかな詫び」が秀吉の形だという言葉の謂を忠興は判じきることができなかった。 その後、氏郷・忠興・利休・宗二の金の茶室を披露する秀吉。利休は絶句した。その真意を忠興は問うが、「茶にできることは大したことではない」と言われる。
  • 小田原攻め
    北条の降伏の使者、山上宗二を迎え入れる秀吉。案の上宗二は秀吉を怒らせ、利休は「何もわかっていない」と言い、自らの手で弟子宗二を殺め鼻と耳を削いだ。
  • 秀吉の唐入りをすすめる利休
    兄の朝鮮出兵を最後まで反対した弟秀長は1591年正月に病死。その後、氏郷・忠興・利休・秀吉は二度目になる金の茶室での席で、すべてを決しようとしていた。 信長を謀略によって亡き者にする企てを秀吉に持ち掛けたのは利休だった。
    細川幽斎(忠興の父)を巻き込み明智に焚きつけてすべてが始まった。今井宗及を遠ざけ、宗二を殺し、天下を秀吉に取らせたのは紛れもなく利休だったのだ。 現世(秀吉)と心の内(利休)はいつしか互いに侵し合い、支配し合おうとしている。それが互いに気に入らない。 唐入りをすすめたのは秀吉の求心力を削ぐためだった。 秀吉は自分の邪魔をする利休がうとましい、利休は秀吉が思い通りににならず自分の願いがかなわないことを悟って、ここまでと悟る。こうなれば自分が消されることは最初から分かっていた。利休は自分を葬る算段をまるで自分のことではないように秀吉につたえた。
  • 氏郷の邸に視点はもどる
    金の茶室が詫びの究極の姿の一つという答えにたどり着く氏郷と忠興。 秀吉の才に気づいた利休は遠ざけたかった。そして死を賜り、秀吉を能に傾倒させることで、利休は美の支配者として永遠に君臨し続けたかった。秀吉と利休は、形の合わなくなった割れ茶碗。いつかこうなることは最初から分かっていた。

第二部

茶の湯御政道で茶会の許しを得た秀吉に近づく利休。秀吉との一亭一客の茶会で、右府様(信長)は恐怖で治世しようとしていること、自由とは程遠いことを説き、自分にまかせてほしいという。利休は秀吉の野心を見抜き利用したのだ。 信長暗殺のあとも二人は数々の政敵を斃していく。それとともに茶の湯は万民が楽しめる侘び数寄に発展させ、表は秀吉・裏は利休となっていく。 しかし大陸の覇者を目指す秀吉の思いがふたりを引きはがした。

終盤に差し掛かる「明知討」の舞の中、利休との出会いから今までのことが走馬灯のように脳内を駆け巡る秀吉。第一部、冒頭に戻る。

 

登場人物

雑に人物紹介。主観がすごい。

千利休

基本的におっとり系のミステリアスな茶聖。しかし修羅なのでこの世の静謐のためなら平気で右府様も謀殺するし、愛弟子すらその手で殺める。

豊臣秀吉

利休に人生ごと乗っ取られかけた太閤。わがままだが一生利休が怖い。出自が悪いのでわかりにくいが実は才にあふれている。

織田信長

すこぶる頭のキレる大英雄。貿易ででっかい富を得る現実的なビジョンを持っていて、実行力もある。

牧村兵部

まったくと言っていいほどかっこいいところがないが、その死にざま、悲しくもひとつの終わり方だなあと思った。

高山右近

凛としまくっている特級耶蘇教信者。神に身をささげた、完全に筋の通ったおとこ。 その勧誘手法は現代の宗教勧誘然としていかがわしさ満点であるにもかかわらず、こいつに勧誘されたらみんなハライソにいきたくなりそう。

瀬田掃部

ごついくせに手先の器用な武者ってかんじ。大きな男が背中を丸めて夜な夜な茶杓を削っているかと思うと可愛い。自分がやらねば!!という熱すぎる使命感がいきすぎて慢心となり秀吉暗殺に失敗するが、掃部のせいではない気もする。かわいそう。利休も誰彼構わず思いを託さないでほしい。

豊臣秀次

太閤の甥。根性もないしビビりでカス。ステータスがモブ。 しかしキャパオーバー時暴走することも。保身しか考えていない。

山上宗二

やりたいことやったもん勝ち青春なら!秀吉を怒らせる天才茶人商人。 死に際が利休にすら牙を剥く狂犬ぶりで、最期は利休すらキレさせるというハチャメチャぶりが宗二らしい。どの本でも宗二は結構好き。

古田織部

傲慢織部。それだけ尊師のお気に入りならそれは傲慢にもなる。 最期は天下を静謐に導こうとしていたのに、足元をすくわれて自業自得にもかわいそうだった。尊師みたいに黙って死のうと思ってたのに、ガチギレさせるとか遠州たち悪すぎる笑

小堀遠州

何でも卒なくこなす、これと言って特徴のないどこにでもいる量産型女子的顔つきの武将。見くびられていたからといって汚い手を使って師をころすとは!肝っ玉がちいせえ!茶の湯で勝負しろ!!私は織部の斬新さが好きだからな!! きれいさびとかいうダサさ満点の武家茶道が本気で好かないので辛口。

細川忠興

クソ真面目朴とつ武将。何事も裏表なくすなお。なぜなに忠興。 氏郷とはマブダチ。使い勝手がいいのかあちらこちらの人生に重用されている。

蒲生氏郷

私が氏郷について全然知らないため、忠興パートで死にそうなところをみて病弱なのかと思ってしまう。 優秀武将さん。秀吉の金の茶室を見た時、すごい、と思える感性を持っているs級茶人。

 

印象的だったシーン

  • 牧村兵部が死ぬシーン
  • 瀬田掃部が死ぬシーン
  • 古田織部が死ぬシーン
  • 上を踏まえて、細川忠興が死ななかったこと。

この物語で死ななかった忠興だけが持つものとはなにか?
私は忠興だけがとにかく謙虚。自身を正しく評価できているのは忠興だけと感じた。

茶室茶庭、潜り門、その他茶の湯の「境界」には外と内、現世と異界といった隔たりが存在し、また、『茶の湯座敷の室礼(しつらい)には陰陽五行説を元にした厳格な尺を用い、手前座は陰陽五行から成り立ち、道具類もまた取り入れられている』とある。そのことを何度も引っ張り出してくることから、秀吉と利休の関係性がまるで光と影のように決して離れられないものだと教えられている気分になる。

感想

読後感は悪い意味ではなく「かなり血なまぐさかったな」「気持ちのいい話が見当たらない」

ちょっとヒカルの碁みたいな話。(碁の名手の幽霊が主人公にとりついて指南するが、主人公が力をつけ幽霊なしでも動きたくなるところが。結末は違えど)

絶対に利休にストーリーテラーをさせないところが憎い演出。素敵。ミステリアス。

天下人の茶、とは、利休の茶、という意味なのかもしれない。

アイキャッチ制作は、一つのテーマに絞ることが難しかったので難航したが、表紙のイメージと「武将」「乱世」などのキーワードから制作。

伊東潤さんの『茶聖』!張り切って図書館で予約した。