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【ネタバレ感想文】石沢麻依 貝に続く場所にて【第165回芥川賞】

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石沢麻依 貝に続く場所にて

2021年12月20日読了。 個人的なアウトプット、ネタバレのある読書感想文。

感じたこと、気づいたことのまとめ。ゴリゴリの主観でお届け。

 

あらすじ

舞台は2020年のコロナ渦、9年前の東日本大震災で行方不明となった大学の単なる知り合いである野宮を、主人公の里美が住むドイツ ゲッティンゲンに迎え入れる話。

前提として野宮はガチで幽霊だし、このまちでは夢の中のようなことが当たり前に起こる。

2011年3月当時、里美も震災を経験したが、沿岸部ではなかったため、津波の直接的被害者である野宮の記憶に触れることへの後ろめたさから距離をつめられない。

それでもゲッティンゲンでの幻想的な交友関係の中で少しづつ野宮と向き合う里美。

野宮は最後、消えていたかもしれない。

それが里美の中でなのか、野宮の中でなのかはわからないけど。

読んだきっかけ

第165回芥川賞受賞作ということだけで、「震災」「ドイツ」以外のワードを知らずに文芸春秋で読んだ。

単行本は162ページ。

作者:石沢麻依(文芸春秋インタビューから)

1980年生まれの女性。大学院を出るまで仙台にくらした。現在ドイツ在住。

ゲッティンゲンにも住んでいたことがある。

美術史に通じ、家族も読書家であるため、日本にとどまらず各国の作家の本を愛してきた。

名著から引用されたたくさんのしかけ 聖人の名前・持物 惑星の小径や星座など天体 など私にとって知見のない分野のことばかりで、余計に作者頭いいんだろうなあと思った。

 

 

 

雑に登場人物の紹介

小峰 里美(主人公)

論文を書いているが進んでいない

どちらかといえば控えめな性格 実家は仙台で妹がいる

作者と似た部分が多いことから40歳くらいの独身女性かも

アガータ

主人公とルームシェアしている女性

基本的に明るい、森愛好家(時に過激派)

散歩で森の地面からとにかくなんでも引き釣り出すトリュフ犬のヘクトーの飼い主

実は母の自殺(そのことと向き合いたくない)から姉との確執がきえない

ウルスラ

作者曰く夏目漱石な樹木的静謐系初老博識元ドイツ語女教師

家じゅう本だらけでミステリアスすぎるけどみんな集まってくる

木曜の集いを開き、おいしい木星オマージュタルトをふるまってくれる

交友関係がとてつもなくひろいので登場人物全員を結びつける結束点

その他の木曜人たち

バルバラとアグネス 母娘

カタリナとルチナ いつも一緒に出てくる若い女性たち

野宮

9年前に津波にさらわれた行方不明者

今は幽霊だがゲッティンゲンに住むことになった

里美とは恋でも友愛でもない、大学での美術史専攻の知り合いという間柄

多分そこそこイケメン

寺田

野宮とゲッティンゲンでつるむ日本人、寺田寅彦

この実際に存在していた偉人につて、私はまったく知らなくて読了後ググったけど、夏目漱石にゆかりのある物理学者でゲッティンゲンに住んでいたこともある人らしい

生きた時代が違うからかとくにモノトーンの印象が強い

野宮と里美の共通の日本友人

澤田

山形の美術館で学芸員をしている男性

大学では野宮と里美と同じく西洋美術史を専攻

野宮とは仲がよく、彼から最初に連絡を取った人物

晶紀子(あきこ)

ベルギー在住の女性

里美と同じ研究室出身

はっきりした性格

 

 

 

印象的だったシーンやキーワード

ゲッティンゲンという静かで不思議なまち

時間と距離、記憶が混濁している

まず「ゲッティンゲン」が「月沈原」というのが最高にエモい

月が沈む原ということは、そのこうこうと輝く月明かりさえも草原に吸われ溶けて淡くひかえめに世界を照らし、湖の底のような静けさが漂う言葉じゃない?!

聖人の痛みを象徴する持物(アトリビュート

トリュフ犬により発掘されウルスラの家で展示される森の地中から出てくるにしてはありえない品たちは、それぞれが登場人物おのおのの持物となるのだが、アガータは乳がんだった母親のおっぱいだし、ウルスラはマントだし、バルバラは写真だった。

土の中から犬が掘り出すものなのに?!

気にしたらダメ。里美の背中に突然生えた永久歯をアガータが5つもスプーンのみで抜くんだから。出血もなく。

そういう物語なのだ。気にしたら負けなのだ。

惑星の小径(こみち)

これはゲッティンゲンに実際あるらしい

以前あった場所から冥王星のブロンズ版が移動しているらしい、冥王星は時に現在の場所、以前の場所、同時に存在するなどなどのことがSNSで騒がれたりするのがおもしろい。

アトラクション的体感型霊障ってかんじで、みんな興味本位で楽しんでいたりする。

価値観というか常識というかがバグっているのが時空のゆがみをさらに感じてなんだかアニメチック。

 

 

 

感想

幻想的、抽象的な比喩が多くいまいち想像しづらいので正直読みにくい。

つづられる文章の美しさありあまる表現力が、現物をあいまいにする魔法をかけているように感じた。

現実でおこる不思議なことについて、読み進める程に、固執しなくていいのだと思える。

ふわっと何となく読んでいたほうがいいと思う。

最初は野宮が幽霊であるというのは何かの比喩で、実際は里美の見ている幻なのかと思っていたけどそういうことじゃない。

本当にガチで幽霊(記憶?)なのだ。

そういう風に、どこからどこまでが現実で同じ時間軸で同じ場所なのか、入り乱れつながり、なだらかに渦巻いている。おだやかなカオスだとおもう。

普通なら気になること、具体的にはアガータがどうなったか、他の木曜人たちがどうやってそれぞれの結末にむかうかなど、本来読み手が重要に思うようなことは全然明らかにされないのも、この作品の持ち味をさらに味わい深いものにしているのかもしれない。

(ただ高尚さのかけらもない私からすれば、きになるから教えてくれよ、とも思う)