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アラフォー腐女子の美容や音楽

煽り運転関連のおじさんたちが殴り合いを始めた話。

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月曜のことなんだけど、とても疲れたので記しておこうと思う。
煽り運転関連のおじさんたちが殴り合いを始めた話。

 

 

1、クラクション

八月らしい暑さの夕方、仕事帰り道。いつも通り私が歩いていたら後ろから車のクラクションが聞こえてきた。三、四回結構長く強めの音だったと思う。
何事かと振り返ってみたら、私から横断歩道をまたいで70メートルくらい先にスクーターとそのすぐ後ろに軽自動車。どうやらスクーターのおじさんがバイクを止めて、それに伴い軽自動車のおじさんも車を停車させたタイミングだった。
スクーターおじさんは軽自動車おじさんに、しつこくクラクションを鳴らされたことに頭にきているらしい。
どちらともなく喚き散らしていたが見る間に取っ組み合いになった。殴る蹴る、大の大人が容赦なく公道でいきなりやばいことになっている。
私は数十メートル先の事態に緊張した。かなり距離があるのに冷や汗をかくくらい怖かったけどその成り行きに足を止めて目を奪われていた。普段から人通りの少ない道で、私の他に通行人はいない。
そのうちどこからともなく軽自動車おじさんの奥さんらしき女性が現れた。彼女が最初から車に乗っていたのか、或いは自宅が近くで飛んできたのか、そこんところよくわからないのだがとにかく二人を止めだした。殴りあっている二人の男の間に小さくて丸っこい体を無理やり割り込ませて、「やめて!」と叫んでいる。
これには流石に私も何か行動を起こさなければならないと思った。軽自動車奥さんは、必死になってやめるように割って入るがなかなか思うように喧嘩の熱は冷めない。揉み合いの中で軽自動車奥さんは次第に苦しそうにしだした。声がかすれ、悲痛さを帯びる。パニック障害とか過呼吸とかそういった類の症状かもしれない。
本来ならここで私は冷静に警察に電話すべきだったのだ。そんで、「今男性二人がここらへんで喧嘩をしてます。早く来てください。」そう言って電話を切ったら立ち去ればよかった。

2、余計なおせっかい

やめておけばいいのに、私はなんの算段もなく走り出してしまった。
彼らが私の接近に気づく距離までくると、私は声を上げる。成人男性の喧嘩を止めるのはとてもじゃないが私にはできないけど、軽自動車奥さんを助けることならできるかもしれない。だから「喧嘩をやめてください!」とは言わなかった。
「大丈夫ですかー!!大丈夫ですか?!」
でも実は算段がなかったわけではない、完全部外者の私が飛び込んでくることで全員が見苦しい状況を客観視しその恥ずかしさから我に返るかもしれないと考えたのだ。まあ、浅はかではあるけれども。
軽自動車奥さんは、「苦しい、くるしい」と、とうとうその場にうずくまったので私は無我夢中で駆け寄り背中をさすった。
「大丈夫ですか?救急車呼びますか?!」
奥さんに呼びかける。
私の目論見はいい線いっていたたが、私の登場で得られた効果はおじさんたちが一瞬狼狽えただけに終わった。
しかし私が近づいてから殴り合うことはなかったので、状況が悪化しなかっただけでも良かったと思うべきか。
再び揉める。
そうしていたら、騒ぎを聞きつけた近所の方が「何かできることはないですか、警察呼びましょうか」と近づいてきた。
私は軽自動車奥さんの体調を危惧して近所の方に「お水を頂けますか」と言った。
警察という言葉に軽自動車奥さんは「いいです、大丈夫。」を繰り返した。
今思えばそれが全てなんだと思う。
だんだんと、全容が見えてきた気がした。
つまり自分の亭主に非があって(煽り運転に事実)それをおおごとにして露見しないために軽自動車おばさんは必死だったじゃないかと思う。
だから具合が悪くなったのも彼女の算段で、喧嘩する二人を止めるための仮病の可能性が高い。となるといよいよ私の行動は意味がなくなってきた。

3、埒が明かない。

スクーターおじさんの怒りはずっと収まらない。
「俺は法定速度の30キロで走ってたんだ!!こんなの煽り運転で一発だからな!!」
殴り合いで吹っ飛んだスクーターおじさんのメガネが道端に放置されていて、後続車にひかれそうになったので拾い上げて渡した。
弦の一部が破損しているがスクーターおじさんはそのままかけた。最初から壊れていたのかな、だとしたらそのままにするなんてこの人もちょっと変だな、なんて思った。だいたいスクーターや自転車で走っているとクラクションで煽られることってたまにある。嫌な人だなあ、そんなに急いでいるのかよ、と思いはしてもムッとして睨みつけるくらいが関の山だと思う。まさかいくら何でも殴り合いになる人なんて見たことがない。だからこの事故は当事者同士、相当血の気が多い部類の人間なのではないだろうか。
私は遂に近所の人から受け取った水を持ったまま、立ち尽くしておろおろするだけになった。もちろん軽自動車奥さんに水を渡そうとするのだが軽自動車奥さんもそれどころではないらしく、一口飲んで私にコップを渡した。我ながら役立たず、帰った方がましだ。
さて、やりとりはおじさん二人の喧嘩から、軽自動車奥さんがスクーターおじさんに謝罪する形に変わってきた。
軽自動車奥さんは軽自動車おじさんを車に乗せて言う。
「あんたが車から出ると(つまりスクーターおじさんと話すと)私が具合悪くなるから、運転席に座ってて」
また、スクーターおじさんを何とかなだめるため、
「ごめんなさい、ほんとうにごめんなさい、私迎えに行かないといけないから、時間がないんです、ゆるしてください」
とか言っている。
軽自動車おばさんもこの状態で一体何をどこに迎えに行くのか知らないが、いや、ここから立ち去りたい一心なのだろうか。
しかし軽自動車の前に立ちふさがって、車の進行を阻止し動かないスクーターおじさん。「警察呼んでくれ!」と声を荒立てたままだ。
軽自動車おじさんも、穏便に解決させようと必死の奥さんのためにおとなしく車に乗っているかと思えば、時々車を降りては「俺も悪かった」とか中途半端な謝罪をしてスクーターおじさんの気持ちを逆なでするもんだからいつまでたっても状況が前に進むことはなかった。そりゃ、さっきまで自分を煽って罵声を浴びせて殴りかかってきた男にその場しのぎで謝られたって、はいそうですかとはいかんだろう。
軽自動車おばさんは、後から謝りに行くからという理由で住所や連絡先を聞き出そうとしたりしていた。まず自分が連絡先を渡すべきではないのかとも思うが。
それに対してスクーターおじさんは「連絡先教えたって絶対電話なんかしてこないだろ!」と言って応じず。
とまあ、だらだら20分くらい押し問答を続けたんじゃないだろうか。

4、汗をかいただけ

結局建設的な進展はなくスクーターと軽自動車は私と近所の人を完全に無視したまま、目の前から走り去った。
聞こえなくて本当によくわからないのだが、軽自動車の後をスクーターがついていくことで、その後警察に行くつもりなのかもしれなかった。
喧騒が止んだ夕暮れの道に取り残された私と近所の人。

暑い、今日が暑いことを漸く思い出した。
茫然自失というか、放心というか。なんとも言えない感情だった。隣に立つ近所の人もあきれた顔をしている。
「なんなんですかね、ええと、それじゃあ」
みたいな曖昧なことをいって私たちはどちらともなくその場を離れた。

つまらない正義感で結局何にもならなかった。
骨折り損のくたびれ儲け。
緊張して、消耗して、汗ばっかり馬鹿みたいにかいていた。家に着いたらワイシャツの脇が見たことがないくらいにびしょ濡れだった。

一時間後、所用で警察署の前を通ったら、ちょうどあの三人が警察の建物に入っていくのが見えた。
ああちゃんと警察が介入したんだな。そう思っただけだった。
疲れて、あれからどうなったのかそんなことどうでもいい。
今日は夕飯はマクドナルドでも食うか。と思った。