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【ネタバレ書評】宇佐見りん 推し、燃ゆ【第164回芥川賞受賞作】

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2021年6月18日読了。

個人的なアウトプット、ネタバレのある読書感想文。

感じたこと、気づいたことのまとめ。

読んだきっかけ

電子書籍ではなく紙の本で初回2日かけて読んだ。

宇佐美りんの2作目、芥川賞受賞作。

前作かかを読んでいるので同じ雰囲気を味わえるかと思って購入。

 

あらすじ

主人公あかりが高二の夏、推していた男性アイドルが暴行事件を起こす。

学校、家族、とことん上手くいかない、生きづらさを抱えた人生で、推しだけがあかりが自分を肯定できる場所だった。

推しの炎上、誹謗中傷、解散発表を乗り越え、遮二無二、全身全霊で推し続けたあかりは、暴行事件から1年7ヶ月後の引退コンサートにも参戦。

高校も中退、家族とも上手くいかず、バイトもクビになったあかりの全ての支えであった推しまでを失い、どうしようも無い気持ちの中、生を手放す選択もせず、不格好でも息をしていくことをやめない。

 

 

登場人物

あかり

主人公。高二。

彼氏なし。発達障害。二つの病名がついている。

勉強ができない。忘れ物を頻繁にする。部屋が片付けられない。みんなと同じようにできない。

定食屋でバイトをして給料は全額推しに貢いでいる。

推しカラー、祭壇、無限回収、DVDなどは3枚買う、生誕祭。

実生活とは一転し、SNSや運営するブログでは丁寧な記事を定期的に投稿、知性的で落ち着いた大人っぽい女性と思われている。推しの20年間の芸能活動の膨大なデータを、たった1年間で詳細までまとめ上げ、ファイリングしている。それはガチ勢としての権威性にもつながり、ファンの中でも一目置かれる存在。

 

上野真幸

あかりの唯一の推し。

顔がいい。 あかりの8つ上の25歳。

子役時代から活躍し、現在は男女混合アイドルグループまざま座の青担当。

リーダーではないが前回の人気投票は一位。

5歳の時、撮影で作り笑いを覚えた。自分のことを『誰か一人くらい、何かを見抜いてくれるかも』という気持ちを持ち続けている。

どこか孤独で、それを灯したような目力がある。

時に不器用であるものの、己の行動を人に委ねることはなく筋が通っているように見える。

ドライになれない、そんな人間らしい葛藤を持った人物。

 

成美

あかりの同級生。

高2の冬に二重整形手術。

前は有名アイドルを追っかけていたが、推しが留学により脱退。ロスで三日学校を休む。つまりあかりの体験を一足先に経験している。

現在はメンズ地下アイドルを追いかけ、チェキ10枚1万は安いと語る。

整形により推しとリアルに繋がりを持つことに成功。表記はないがセフレなのかもしれない。

 

バイト先の面々

昼は定食屋、夜は居酒屋。

ちゃきちゃきの女将さんと物腰穏やか店長二人(おそらく夫婦)、のこじんまりした店。

大衆向けであり客層は力仕事の男性客が主。

バイトの時給は1,000円。

あかりは二年強勤務したが無断欠勤を繰り返しクビにされた。

推しの予定に合わせてや金のために上限までなどシフト調整できることから、ある程度融通は効くようである。

また、推しについても女将さんが知っていることから、コミュニケーションはとれている。

あかりは推しに一直線で気づいていないが、普段高校生のバイトを取らないことのに、仕事できないことをわかってもそれ自体をクビの理由にしていないことから、できる限り温かく見守っていてくれていたのではないか。

 

家族

理想が高く厳しい人。

強い口調が目立つが、あかりは慣れてしまって無視することも。

時に頑固、ヒステリックなど更年期障害を思わせる。

祖母(母の母)と確執がある。

自分の母親の入院、あかりのこと、全てのことがうまくいかず睡眠障害を患っている。

体調が悪い中、仕事を頑張っている。

パートではなく会社員をしていそう。

普段女手一つで気を張っているだけに夫がいると気が大きくなるようだ。そのことから夫婦仲はよさそうである。

 

ひかり

あかりの2つ年上の姉。大学生。

優秀で何でも卒なくこなす。

妹に英語を教えるシーンなど姉特有の大人びた言動が目立つが、そうあろうと努力しているだけ。

大学受験など怒ったり泣いたり、年頃の女の子らしいナイーブな表情も見せる。

神経質で、いい子でいなければと思っている。

家の中で悪びれもせずふてぶてしくすら見えるあかりに対して、ひかりはいつもびくびくして親の顔色を伺う典型的な長子。

あかりばかり甘やかされていることがうらやましく嫉妬している。 母にもっと見てもらいたい、手をかけてもらいたい、つまり愛されたいのだと思う。

 

いかにも仕事のできそうな自信に満ち溢れた壮年。

普段は海外に単身赴任。

一人称、おれ。

ツイッター上で若手女性声優におっさん丸出しのさむいリプをしているのを、あかりに知られている。無論あかりは問い詰めるわけでもなく内心軽蔑している。

本人は子供を丁寧に諭しているようだが、感情論に走らず理路整然と正論を振りかざすので、とてもあかりに寄り添っているようには見えない。

いい父親像であろうとしているのがうすっぺらいので、説教が芝居じみていると感じる。あかりがイラつくものわかる気がする。

普段子育ての現場を離れている親、というのを強く感じた。しかし家族のために金を稼いでいることは肯定したい。

 

母方の祖母

2年前に胃ろうの手術からずっと入院している

 

SNS

いもむしちゃん

あかりと同担。

SNSだけの繋がりであるが、仲が良くコメントを一番多くくれるのも彼女。

成美によく似た表情豊かな文面。

成海にせよ、いもむしちゃんにせよ、あかりは底抜けに明るい天真爛漫な子と一緒にいるのが楽なんだろうなと感じた。

 

虚無僧ちゃん

セナくん推し。

ネイル、エナジードリンクチータラ、ハイブランド、ベリーショート。 などなどツイートから社畜だけどきれいなお姉さん感を漂わせる。

 

SNSの自分と現実の自分、その差異は人によって違うと思う。

自分から見て、全然違うかもしれないし、まったく同じかもしれない。 フォロワーから見て、全然違うかもしれないし、まったく同じかもしれない。

良い悪いではなくて、それがSNSなんだと感じる。

 

 

時系列

幼い頃

母と姉と風呂 姉は頭脳明晰だが自分は何をやらせても人よりできない

漢字テスト クラスで最後の一人になっても合格できなかった

 

高1 4月

家で、幼少期舞台を観に行ったピーターパンのDVDを見返して推しに出会いなおす

 

高1

姉と母の会話 夜二人が話しているのを聴いてしまう

母「負担になっていてごめんね」

姉「あかりは何にもできないんだからしょうがない」

 

高2 7月

推しがファンを殴る

2つの病名がつく(おそらく発達障害

みんなが難なくこなせることが自分にはできない

 

あかりの推しの膨大さ

権威性がありガチ勢としても有名

ブログにファンもいる 20年分集積したデータから推しのインタビューでの受け答えを予想がつくほど

勉強はできないけど推しのことなら整理整頓(写真フォルダ分けなど)がしっかりできる

ファンを殴ったこと、炎上していることを踏まえて、自分ができるのはこれからも推すとということだと考えるあかり

忘れ物が多く人、友人にも迷惑をかける、メモが増えていく

 

・車内

祖母のお見舞いの帰り

 

・家

CDについてくる人気投票応募券50枚

新しいCDを祭壇に飾る

部屋はごみだらけで汚くても推しのスペースだけは整頓されている

『押しは背骨』

今のところコンサートは中止にはならない

星座占い、推しのだけ見る、自分の星座は見ない

 

・バイト先

お客さんにハイボールちょっと濃くしてと言われても融通が利かない

上手くいかない、失敗ばかり

店にも客にも迷惑をかける

雑談が下手

忙しいとパニックになってフリーズしてしまう 

 

高2 8月

・人気投票 推しの順位は前回1位から最下位に

生半可な気持ちでは推せないという決意

金、体力、時間、自分の全てをかけてのめり込んでいく

缶バッジやブロマイドの無限回収

生誕祭でデコケーキ1ホール一人食い

ブログの毎日更新

 

高2 9月

無理をしすぎて体調を崩す

学校に行かなくなる

担任からこのままでは留年だと言われる

 

高2 3月

留年の決定、高校の中退 母との帰り道

二人とも茫然自失

 

中退して9月

・祖母の死

母の実家で家族4人泊まる

就活の話 父との会話の中であかりは悔しくも涙を見せる

一人暮らしを姉が発案

 

・一人暮らし開始

祖母の家もごみだらけ荒れ放題にしてしまうあかり

定食屋のバイトは無断欠勤が続きクビになってしまった

親に生活費を切ると言われているがまだ振り込まれている安心

 

中退して翌1月

・インスタライブ

クマのぬいぐるみに女の影、ゴシップ記事(20代女性と同棲)がガセでないと内心確信してしまう

窓の外が一瞬映る

推しが次のコンサートが最後だと電撃発表

解散発表という勝手なふるまいにファン困惑

新バイトすら見つかっていない家は汚い

 

・翌日の会見

ラストコンサートで推しが引退すること

左手の薬指に光る指輪

SNSでは推しの住所が特定される

それでもあかりは推すしかない、それがあかりが生きていることそのものだから

 

・ラストコンサート

渾身の愛をぶつけ、叫ぶあかり

『推しのいない人生は余生』

悪いことだとわかっていて、スマホで密録するが雑踏と雑音しか記録されていなかった

青い花柄のワンピース、青いリボンで参戦

 

・推しの住むマンションへ

ラストコンサートのブログ更新をしようとして決まり切らず散歩に出るあかり

推しのマンション、川を挟んで対岸にたどり着く

ショートボブの女性、洗濯のシャツ、彼女が指輪の人だという確信

推しは人になった

走って逃げた

 

・家に戻る、ラストシーン

めちゃくちゃにすることが、それがたかが綿棒のケースをぶちまけることだった。

自分の小ささ

推しのことが分かったつもりになって、そんなことできやしなかったというどうしようもない気持ち

四足歩行は背骨がなくて立てないってことかな。

格好悪くても、それでも人生は続いていくんだという、『希望』とは違う現実の描写。

 

 

 

好きなシーン

あかりの部屋

青色が強烈なまでに脳内に描かれる。

ごみで散らかるべたついた床と、臭いと湿気を含んだ布団や家具を涼やかなカーテンの青緑色が揺れて清めているようなイメージ。瑠璃色ライトも暗くどうしようもない部屋と心を肯定してきれいなものにしてくれている。

終盤、祖母の家で暮らすあかりだが、やっぱり一から創り上げられた自分の部屋のほうが印象的。

本の装丁、カバーの色がピンクで中身が青なのは、肉と背骨なのかな。

 

中退、母との帰り道

どこか世界から切り取られた浮遊感、昼下がりの客のすいた電車の中みたいな感じ。

あかりと母のふたりがお互いこれからどうすることも考えられず、心通わせる余裕すらなく、ただ、家路につくのがアイボリーっぽい褪せた白のイメージで脳内に描かれた。

とおい遮断機の音とか、小さい人影とか、カメラを思いっきり引きで撮影している感じがした。

 

マンションの対岸

全部の色を少しずつ混ぜた灰色、コンクリートの色を想像した。

鉄骨建築であり、くらい空であり、たくさんの人が暮らす川の水の色。

対岸であるにもかかわらず、ベランダの洗濯ものをはっきり視認できる距離ということで距離感が掴みにくかったが、近くて遠いあかりと推しの距離と同じなのかもしれないと思った。道中のバス終点の描写も、あかりの推し活の終了を示唆している気がして好き。

 

気づいたこと、感じたこと

  • かかにも感じた 宗教的な精神修行や思い込み、妄信を感じる。作風なのかも。
  • 相変わらず生々しいにおいの描写によって情景を想像させるのがうまい。

 

  • あかりは推し以外どうでもよくて、感情を表に出して人に伝えるのが下手に見える。しかし友人やSNSではそれを感じさせない。自分がダメだと思われていると察するとシャットダウンしてしまうのかも。
  • 上手く生きることができないあかりを支えているのが推しで、推していることで他の嫌なことも望んで引き受けている。
  • 苦しいことをめいいっぱい背負い込んで、浄化される境地にたどり着けると信じている。
  • あかりは多分恋をしたことがないし、別にしたくもないし、推しに恋していたわけではない。自己投影だと思う。自己投影からの感情移入だと思う。

 

  • インスタライブで解散発表した時はアイドルも人間だなと強く思った。結局、とおしてあかり視点のため真幸のことはあかりのフィルタを通した断片的情報しかない。

 

  • あかりは推しのことなら人より頑張って成果を出せる。それは他者には認められず、普段の生活をただ怠けているように見えてしまう。誤解される。それが発達障害というものなのかな、わかってあげられてないことがこれまで私にもあったんだろうな。私は発達障害ではないのでわからない。生きるのがつらい人が困っているとき、どうしてやればよかったのかわからないし、気づかないうちにあかりの家族のようにふるまったかもしれない。そう思うと、私には母も姉も責められなかった。

 

  • 推しに貢いで生活がままならないオタクの記事がツイッターで回ってきたことは一回二回じゃない。そういう推し活はやめましょう、危険です、そういう風潮がある。でも推しを持つということが、生きづらいだれかを活かしていることが今この瞬間も確実にある。

 

 

別紙参照

『かか』のネタバレ読書感想文はこちら

ibiza-end.hatenablog.com

 

中田敦彦YouTube大学『推し、燃ゆ』

動画に引っ張られたくないので二回読んで自分である程度まとめてから観た。

おおむね一般論の部分とあっちゃん独自の部分と備えられています。

芸人として推し視点の話、葬式をなぞらえる描写の解釈がおもしろかった。

 

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